コミュニケーションのコストについて考えてみよう

A.会議・報告会・検討会などが近づくと職場の雰囲気が暗くなる

B.ヒヤリハットが集まらない

C.保護者対応等のトラブルが、深刻になるまで共有されない

D.あらゆる意思決定に時間がかかる


あなたが所属している保育所・認定こども園には、上のA~Dのような傾向がありませんか。

これらは、コミュニケーションコストが高い組織が呈する、ありがちな症状です。


次に、あなた自身の職場における振る舞いについて、お尋ねします。


E.自クラスのリーダー(直属の上役)ではなく、仲のよい先輩に相談してしまう

F.新人とチームを組んだり、実習生の指導を任されると憂鬱になる

G.自分の気持ちや考えを、職場で聴いてもらう機会がなく不満が募る

H.自分だけ情報から取り残されていると感じることがある


ご自身の行動や思考・感情の動きを振り返ったときに、E~Hの中にあてはまるものはないですか。

これらはコミュニケーションコストが高い人が、対人関係において抱えがちな問題です。

あなたにこうした傾向が見られるならば、あなた自身、または仕事のパートナー(あるいは職務を遂行するチームのメンバーの誰か)のコミュニケーションコストが高いということです。


ところで、そもそもコミュニケーションコストとはいったい何なのでしょうか。


コミュニケーションコストとは

コミュニケーションコストとは、「情報を伝達したり、意思を疎通する際にかかる時間・労力・負担感」のことです。


例えば、あなたが勤務する保育園が、幸いにもコミュニケーションコストが低い組織だったとしましょう。

あなたが保護者から受けた小さな要望と、それに対するあなたなりの解決策の提案を園長に伝えようとしたときには、簡単なメモ一枚で済むことでしょう。
(その提案が採択され実行に移されるまでに必要な手続きとは、また別の話です)

しかし、コミュニケーションコストが高い組織では、そう簡単には済まないのです。


コミュニケーションコストが高い組織が抱える厄介な問題

◇誰に相談してよいのか判らず、周囲に訪ね歩く

組織内で情報が公開・共有されていないことが第一の原因です。

先述した例では、「日常的で軽微な報告や提案はメモでよい」「クラスリーダーや主任をスキップして、園長に直接伝えてもよい」というルールが全ての職員に共有されていることで、コミュニケーションコストが低く抑えられている(という設定)ため、不安や迷いを抱くことなく行動を選択できています。

しかし、報告や相談の相手先や手順・手法・様式などが明確に定まっていなかったり、公開・共有が行き届いていない組織では、まったく別の状況が生じます。

何らかの課題が表面化する都度、「いつ・どこで・だれに・どうやって」相談すべきかを検討するという、課題解決の本質とは全く無関係な余計な仕事を、まず片づけなければなりません。

それが繰り返されたとき、「(課題に)気づかなかったことにしよう」という考えが頭をもたげてきたとしても不思議ではありません。

冒頭で尋ねた「B.ヒヤリハットが集まらない」「C.保護者対応等のトラブルが、深刻になるまで共有されない」などは、この問題が常態化した結果、表面化してくるものと考えられます。


◇新しく決まったことが周知されず、修正や説明で時間がとられる

新型コロナウイルス感染症が急速に拡大し始めた時期に、この問題を通じて、コミュニケーションコストの高さを露呈した自治体や法人が多かったはずです。

周辺の同規模の組織が次々に具体的な施策を打ち出しているのに、身動きが取れず右往左往するばかり。現場の職員は市民・利用者に何を言われても「すみません。まだ何も決まっていません」と答えるしかなく、困惑するばかりだったことでしょう。

未知の感染症への対応であれば、ある程度の混乱は致し方ないことかもしれません。しかし、日々の業務の根幹部分にこの問題が横たわっていると、あらゆるリスクマネジメントが遅滞します。

また、職員の不安や徒労感が増大し、意思決定機関に対する不審を募らせるため、「A.会議・報告会・検討会などが近づくと職場の雰囲気が暗くなる」「D.あらゆる意思決定に時間がかかる」といった問題が水面下で深刻化するのです。


人員の増強は、実は逆効果…?

近年、保育業界では「対話を重視しよう」「対話の質を向上させよう」というムーブメントが起きています。(対話が重要、でもそもそも対話とは…? をご参照ください)

この動きそのものはとても大切で、ぜひ全ての保育・幼児教育の実践の場で推進していってほしいものです。

また、対話の場・機会としてのノンコンタクトタイムの確保や、対話について学んだり訓練したりする機会としての現職研修の充実も重視すべきでしょう。

そして、そのためにはまず、配置基準ギリギリではなく、余裕をもった職員数を確保することも必要なステップです。

しかし実は、人員の増強はコミュニケーションコストを上げてしまうのです。

その理由と、組織・個人別の「コミュニケーションコストを上げる要素」については、次のブログで解説します。


保育コンディショニングラボ

保育所・認定こども園で働く人たちのための、働きやすい職場作りをサポートする研究所です。

2コメント

  • 1000 / 1000

  • 中村章啓

    2022.03.05 11:13

    コメントありがとうございます。 関係構築を意図した会話の場の提供や、自己開示に繋がる対話のための心理的安全性の醸成などについて、具体的な事例もあげていきます。 今後ともよろしくお願いいたします。
  • syouko

    2022.03.05 10:41

    はじめまして。 公立保育園に勤務しています。 自治体に複数の園があり、全体の保育の質を向上させようと4月から動こうと仲間と話していました。 自分が取り組みたいことが分かりやすく文章化されている!と嬉しくなり、思わずコメントしてしまいました。 会議ではない対話の場を作り出せるようにがんばろうと思います。 ありがとうございました。